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王宮でナイトお疲れさまでした。来てくださった方、ありがとうございます!
 8/25新刊は、シンジャでジャーファル女体化話でした。p68 600円。

 世界を巻き込む大戦で、シンドバッドを庇ってルフを変質させる魔法を喰らい、性別が変わったジャーファルが、女子会に参加したり、踊り子衣装でシンドバッドにお酌したり、シンドバッドに公開プロポーズかまされたり、キレてシンドバッドを誘惑してみたりします。

 本文サンプルを以下に入れておきます。

「やっと来たか。お前、どこ行って……お面外しなさい」
「嫌です」
 30歳を超えてから、腹が出るどころかますます男ぶりも上がっている我が王は、例によって例の如く、周囲に踊り子さんたちを侍らせておりました。
 磨き上げた肢体に煽情的な衣を纏い、装身具で飾り立て、華やかに化粧を施した踊り子たちは、女性としての魅力に溢れています。
 彼女たちは、空気が読めないとやっていられない商売なので、私が誰なのか気づいているからこそ、私が現れた瞬間こそ不自然な沈黙に包まれたものの、すぐに、気にしていないふりをしてくれました。ありがたいです。まぁ、謝肉祭が終わった後、国営商館あたりで散々話題にするでしょうけどね。今は、もう、面と向かって何か言われないだけで、まだマシだと思います。
「ジャーファルくん、こっちへおいで」
「嫌です。それよりも、用件をどうぞ。何か、緊急の仕事でも出来ましたか?」
「仕事? ああ、もちろん。だから、側に来い。それとも、王は、部下に仕事を命じる為に、喉が枯れる程大声を出さんといかんのか? ん?」
 このヤロウ。
 言い様に腹が立ったものの、どうしようもないので、側に行くと、久しぶりに近くで見るシンが美しいので、更に惨めな気分になりました。
 意思の強さを表す太い眉と、目が合うと吸い込まれそうな心地がする、黄金色の瞳。顔立ちは、彫りが深く整っているのに、どこか愛嬌があって。日焼けした肌と鍛え上げられた身体は、雄の色気に溢れています。その上、ジンを宿した金属器の輝きが、更に男ぶりを引きあげてしまってますから、もう手に負えない。
 ほんっと、イイ男ですよね。
 それと比べるのもおこがましいですが、今の私のみっともなさときたら……鼻は低くて、凹凸が薄い顔。化粧でそばかすを隠しても、大輪の花のような踊り子さんたちとは比べ物になりません。かろうじて胸はあるものの、肌は傷痕だらけ。不気味な程に白い肌は、傷痕が目立つばかり。
 私は、醜い。
 男だった頃は、シンの容姿が優れているのが嬉しく誇らしく、自分の容姿がぱっとしないことはさして気になりませんでしたが、女になってこんな服を着ていると、自分の容姿の残念さが惨めでなりません。
 いやいや、気にするなジャーファル。私の取り柄は、最初から見た目じゃない。美しさや可愛らしさや色気なんて、誰にも要求されていない。私に必要なのは、武官としての腕っ節と文官としての処理能力。公人としての能力こそが私に要求されているモノであって、そこに問題が無いのならば、胸を張っていればいいのです。
 などと己を宥めすかして輝ける我が王に近づくと……オイ! お面返せ!
「止めてください! お面取るとか、子供かあんたは!」
「せっかく可愛い格好してるのに、なんで厳ついお面付けたがるんだ、お前は」
 隙を突かれてお面を奪われ、お面を奪い返そうと伸ばした手首を掴まれて、ぐいっと引き寄せられ、シンの隣に座らせられました。
 私はシンを睨みつけましたが、シンはちっとも気にせず涼しい顔。
「お仕事って何ですか? 遊んでいないで、お仕事しましょうよ。私はお仕事をしたいです」 
 宴席で言われたら嫌だろうと、嫌がらせのつもりで仕事仕事言ってやったら、シンはニヤリと笑って。
「王様のお膝に乗ってお酌をするのが、踊り子さんのお仕事じゃないのか? 俺は、王として、踊り子ジャーファルくんに酌を所望するぞ!」
 なんて言いやがるんですけど! 
 ああもうっ、今夜のシンは、なんでこんなに意地悪で、人をイラつかせるんですか!?





「可愛い踊り子さん、君、本当にえらく可愛らしいけど、恋人とかいるのかな? どんな奴がタイプだ?」
 イケメンが低い声で耳元に囁いてきますが、私の胸にこみ上げるのは、トキめきではなく、苛立ちです。
 抵抗しまくって膝に乗るのだけは回避しましたが、その代わりに、と肩を抱かれて逃げられません。
 手にした小瓶が空になれば退席する理由が出来るので、私はシンの杯をなみなみと満たしてやるのに、シンがなかなか口を付けないから、余計にイライラしますね。くそっ、殴りたい。
「……恋人はおりません。私の好きなタイプは、仕事熱心で、お酒を飲み過ぎたりしない人です。仕事を置いて逃亡したりしたりせず、大酒を飲んで部下に迎えにこさせたりせず、酔っ払って現地妻を1晩に何人も作ってしまったりしない方です」
「可愛いのに手厳しいなぁ。なぁ君、チャームポイントのそばかすを、なんで隠してしまったんだい? もったいない」
「……白粉を用いました」
 一瞬、手にしている酒瓶でシンの頭をどついてしまいそうになりましたが、さすがに自制します。けれど、そばかすは、長年己の容姿について諦め続けてきた私が、それでもコンプレックスを抱えてしまっているポイントなので、やっぱり腹が立ちます。早く潰れろ、この酔っ払い王!
「可愛い踊り子さん、君、思ってたよりも胸があるね。官服姿と明らかにサイズが違うのは、どうして?」
「……胸部に脂肪がついているのが慣れなくて邪魔なので、苦しくない程度に晒しを巻いておりました」
「可愛い踊り子さん、王様は、ぱふぱふを要求します! 君の胸の谷間にダイブしたら、天にも昇る心地が味わえることだろう!」
「………王よ、それは、首筋に手刀を叩きこまれて気絶したい、という意味でございますか? それとも、みぞおちに膝蹴りの方がよろしゅうございますか?」
 なんたることか。
 長年忠誠を捧げてきた我が王は、予想以上におっぱい星人でした。
 この男、顔じゃなくて胸を見て会話しやがる。
 こんなどうしようもないセクハラを普段から連発しているのか、女性から内心呆れられてたりしないのか、と心配になって周囲を見渡せば、いつの間にか、あれだけたくさんいた踊り子さんたちはいなくなってました。
 あ、れ?
「つれないな~、可愛い踊り子さん。まぁ、お堅くてつれない相手を徐々に蕩かしていくのも、恋愛の醍醐味というものだが」
「お戯れを」
「いやいや、本気だよ。昔、俺を夢中にさせた最高に可愛い子は、そりゃあもうつれなかった! 触ろうとすると逃げ出すし、捕まえて無理やり触ってやったら、殺しそうな目で睨んでくるし。抱きしめて寝ようとしたら、嫌がって暴れるし。中々口きいてくれないし、笑ってくれないし」
 ん? それは誰の話だ?
 シンは、老若男女問わず人に好かれます。稀に、シンを嫌がる人間もいるけれど、そんな場合は概ね深追いはしないはず。そんな、相手からしたら嫌がらせか、という程しつこく構うことだなんて……
「でも、愛情深いイイ子なんだ。真面目で、頑張り屋で、何より可愛いし。賢くて、強くて、健気で、一途だしね。誰よりも俺を理解して、何があって俺を見捨てず側にいてくれて、文字通り、身体を張って庇ってくれて」
 ん? んん?
「ツッコミは基本的に辛口で、時に鉄拳制裁で俺をはり倒したり縛りあげたりもするが、根底に深い愛情があるのは、ちゃーんと伝わってくる。子供好きでね、年下の奴には母親みたいに世話を焼くもんだから、よく考えるとそこまで年が離れているわけじゃないのに、母親みたいに慕われてる」
 ………も、もしや?
「卑屈な程に自己評価が低いけど、周囲は皆、ちゃんと見ててちゃんと認めてる。そして何より、俺にとって、大事で特別で掛替えが無い相手なんだ。だから、あんまりつれなくしてくれるな。俺の色の衣を纏って俺から逃げるとか、どんなプレイだよ。なぁ、俺の愛を、受け入れてくれ」
 心臓が早鐘のようです。顔は、真っ赤になってしまっているでしょう。
 シンが、肩を抱く腕にぐっと力を入れ、もう片手の杯を卓上に置いて、頬に手を当ててきたので、私は、俯いて聞こえないふりをすることも出来ません。
 この2カ月ずっと距離を置いてきて、久しぶりにこんなに近くで見上げたシンは、腕が力強くて、触れてくる体温が高くて、いい匂いがして、途方も無いイケメンでした。もはや罪だと思うほどに。
 祭りの篝火よりも輝いている気がする黄金色の瞳は、眼差しの圧が強く、熱く。私は、このままじゃ取り返しのつかないことが起こりそうで怖いと思うのに、目を逸らすことが出来ません。
「他の誰よりも愛してる。俺の、可愛い、ジャーファ」
「うわぁああーっ!」
 百戦錬磨のイケメンのフェロモンとは、なんと濃いものなのか。
 魅惑的な低音で恥ずかしげも無く連ねられる甘い言葉と熱い眼差しに、頭の芯がぐらぐらして身体から力が抜けそうになった私は、怖くなって、衝動的に、主君を殴り倒してしまいました。
 性別が変わろうとも、私は、並みの女性とは比べ物にならないほど腕力があります。
 元男のそばかすブスを口説く程酔っ払っていたシンは、油断しまくっていたようで、ノーガードで私の攻撃を喰らって、床に沈みました。
「シン!? ああっ、ごめんなさい、シン!?」
 からかわれてセクハラされて、腹が立った上に恥ずかしかったからといって、主を殴るなんて、従者失格です。
 私は、しばし取り乱し……

「……じゃあ、宴はお開きってことで」
 開き直って、シンが意識を失った状態では権限を委譲される№2の立場を利用することにしました。
 さ、明日も仕事が待ってるし、化粧を落として着替えて寝ようっと。
 

~中略~



 シンドリア王宮の朝議は、議論をする場というよりは、1日の仕事を円滑に進める為の通達の場です。
 無駄に堅苦しい形式を嫌い実利を選ぶシンの考え方に従って、伝達事項を周知した後は、質疑応答の時間を設けて、何も問題無ければすぐ解散、というのがうちの流儀。
 なので、今朝も、議事進行を任されている私が、「何か、疑問や発表がある方はいらっしゃいますか?」と問いかけたのですが。
「はい! ジャーファルくん、はい! 王様は、皆にお話したいことがあります!」
 なんでこの人、王様のくせに、子供みたいに挙手して発言の許可を求めたりするのでしょうか。ま、いいですけど。
「ではどうぞ、王よ」
「うむ」
 一つ頷いてから顔を上げたシンは、稚気を拭い去り、威厳に満ちた表情をしておりました。シンが醸し出す重厚かつ壮麗なその雰囲気に、朝議の参加者は、背筋を正して集中します。
 シンは、何か重大な事実を発表する時の真面目な顔と声で、こう、言い放ちました。

「俺、結婚したい! したくなった! 絶対結婚するってもう決めた! なので、今この瞬間から、全力で婚活するから、皆、協力よろしく☆」

 は?
 驚き過ぎて、予想の斜め上どころか異次元から飛び出してきたような言葉に対するツッコミがまだ思い浮かばないうちに、シンは、隣に座っていた私に手を伸ばし、私の指に何かを嵌めました。

「というわけで、結婚してくれ、ジャーファル! 俺の嫁はお前しかいない!」

 はぁああああっ!?
 何これ何これ何なんだこれ!? 今何が起こっている!? 私は何聞いた!? シンは何言った!?
 盛大に混乱して固まる私を気にせず、シンは話を続けます。
「結婚しても、妻や子がアルサーメンに狙われるだけで幸せにしてやれる自信が無かったし、何より、俺の運命の相手というならばお前だろうから、お前がずっと側に居てくれるのに、愛してもいない女と結婚する気にはなれなかった。しかし、今、全ての障害は取り払われた! アルサーメンは滅び、いずれきな臭くなるだろうが、とりあえず今は、大戦の反動で、世界的に平和な状態だ! その上、お前はルフの奇跡で女になってるから、シンドリアの法律的にも対外的にも問題が無い! 愛し合う2人を阻むモノは無くなった! だから結婚しようジャーファル!」
 …………。
 私は、恐る恐る、シンに何かを嵌められた己の左手に視線を移します。
 古傷が目立つ左手の薬指には、見覚えがあるデザインの指輪が輝いていました。
 シンは、右手に指輪を2つ嵌めていますが、大ぶりな方の指輪は、ゼパルが宿る金属器です。私の指にぴったりと嵌まっているこの指輪は、そうではない方の指輪と同じデザインですが、埋め込まれている石が違いました。シンの指輪はオニキスで、私の指輪は琥珀です。
 黒と、黄金色……
「アリババ君から聞いたんだが、最近、レームでは、左手の薬指に同じ指輪を嵌めるプロポーズが流行りだと聞いて、作らせてみた。だが、この指輪は、お前の瞳と同じ色という理由で俺のお気に入りだったから、石も同じというのは何か違う気がして、お前に贈る指輪には、俺の瞳の色と似た石を埋め込んでみた。どうだ、気に入ったか?」
 シンは満面の笑顔で問いかけるが、シンのオニキスの指輪は、いつの間にかいつもの右手ではなく左手の薬指にハマっていたが、私は言葉が出てきません。
 いや、だって、そうでしょう? 
 何ですかこれ? 趣味の悪い罰ゲームですか? 性質の悪いどっきり企画ですか?
 なんで、女性にモテてモテてモテて仕方が無いはずの我らが七海の覇王が、つい2カ月前には男だったそばかすブスの元暗殺者なんかに、公衆の面前でプロポーズかましてんですか? 誰得ですか?
「お前が驚くのも無理は無い。俺も、あの戦いが終わるまでは、己の想いなど生涯口にするつもりは無かった。想いを告げずとも、結ばれずとも、お前の全ては俺のモノだ。その事実に満足して、墓場まで持って行く気でいたさ。けどなぁ、2人とも生き残って、更にお前が女になったんだ。俺は欲張りでワガママだから、理由が無くなったら、我慢なんか出来ん。つーか、我慢する必要無いだろ? だから、指輪が出来上がったら、八人将全員が揃う公の場で言おうと決めてて、今朝職人の元へ催促に行ったら、指輪が出来ていたから、俺は……」
「うわぁああああっ!!」
 やっと、硬直する身体と混乱する頭の回路が繋がった私は、立ち上がり、頭を抱えて叫びました。
「シン! ふざけるのもいい加減にしてください!」
「俺は真剣だ! お前こそ、人の一世一代のプロポーズなんだから、真剣に受け止めろ!」
 シンは、私に呼応するように立ち上がりました。
 その顔が真顔でカッコいいのが、更に私を腹立たせます。イイ歳をして、なんて悪ふざけをするのか。そんなに、昨夜のパンチが痛かったのか(その件に関しては反省していますが)。
「バカ野郎! 私と結婚とか何考えてんだ!?」
「俺とお前とシンドリアの幸せについて、俺は考えている! 愛するお前と結婚出来て俺は幸せ、愛する俺と結婚出来てお前も幸せ、お前という良き国母を得てシンドリアも安泰! ほら、イイことばっかりだろうが!」
「イイわけあるかっ! 元暗殺者な上に2カ月前まで男だったそばかすブスな臣下を嫁とか、国民も国際社会も認めるわけないだろ! バカシン!」
「バカはお前だ! では、この場にいる、シンドリアの中枢を担う者たちに尋ねる! お前たちは、ジャーファルが王妃となったら認められないと思うか!? どうだ、シャルルカン?」
 シンは、突然、わけのわからない展開と私たちの剣幕に驚き、ツッコミすら入れられず傍観者になっていた周囲を、巻き込み始めました。
「えっ、あ、お、俺ですか!? あのっ、ジャーファルさんには、前にそばかすブスとか言っちゃったけど、俺、ホントは可愛いと思ってますよ!」
 いきなり指名されたシャルルカンは、わけがわからないが王に指名されたのだから何か言わないと、と義務感に駆られた様子で、質問の答えではないことを主張しました(質疑応答がなってない。後で指導しないと)。
「可愛い王妃ジャーファルはOKということだな。よし、次、どうだスパルトス!?」
 シャルルカンの意見を強引に纏めたシンは、次に、こういう話題に最も向かない人物に話を振りました。
「わ、私ですか!? 私は、その、こういう事態は教典の中に前例が無く……」
 可哀想に、スパルトスは、真っ青な顔で目を回しています。
「教典ではなく、お前の意見を聞きたいんだ、スパルトス!お前の頭で、心で、考えて感じて決めろ、スパルトス!」
「私はッ、この国の王妃は、この国のことを大事に思ってくれる方がなるべきだと考えます! ジャーファル殿は、この国を大切に思ってくださっていますから、だからっ」
 手練手管に長けたシンは、真面目なスパルトスを追いつめ、自分の望む答えを引き出してしまいました。
「よーし、スパルトスもOKだな! 次、ピスティ!」
「はーい、もちろんOKです! ていうか、ジャーファルさんじゃないと嫌です!」
 シンと気が合うピスティは、ノリノリで即答。
「イイ子だ、ピスティ。よし、ヤムライハ!」
「は、はい! 私も、お妃様はジャーファルさんがいいです!」
 ・・・・・・ヤムライハは、がんばり屋さんなイイ子なのですが、煮詰まると、明晰なはずの頭脳が迷答を弾き出すことがあります。
「よし! じゃあ、マスルール!」
「っす」
 シンを目を合わせたマスルールは、力強く頷きました。ええ、そりゃあもう、このリアクションを目にした全ての人に、余計な言葉などいらない程の絶対的肯定という姿勢が伝わる程の、力強さで。
 シンの命令は全部素直に受け取ってしまうのは、マスルールの唯一に近い悪癖です・・・・・・。
「よーし! ドラコーン、次はお前だ! 俺はかつてお前の婚活に協力したというのに、我が友よ、この俺の婚活を、まさか邪魔などすまいな!?」
「脅しをかけるな。当人同士が合意出来たなら、好きにしろ」
 主従になる前は同じ歳の友達という関係だったので、シンは全く取り繕わずに脅しをかけ、将軍は、これは止められんと諦めた様子で、シンの言い分を受け入れてしまいました。私だって将軍の婚活に協力したんですから、もうちょっとがんばってくださいよ。
「じゃあ、最後、ヒナホホ!」
 シンは、頭が良く、人心掌握に長けています。だから、声をかけた順番にも意図があるはず。
 ヒナホホが最後だったのは、彼が、味方に出来れば心強いが敵に回すと1番手強い相手なので、彼の前に、外堀を埋めておく戦法を取ったからでしょう。
 ヒナホホまで頷いてしまえば、公衆の面前で八人将の合意が為されたことになり、他の相手が反対出来るわけがないので、シンの勝ちとなってしまいます。
 朝議に参加するのは、我々八人将と、各部署の隊長・部長クラスの人員。小さな国ですし目を光らせていますので、シンに叛意ある者はいないはずですが(ていうかシンドリア国民は基本的に皆シンに心酔してます)、実は私のことが気に入らない、という者はいると思います。
 だから、匿名可でアンケートでも取ったら、反対意見もそれなりに出るでしょうに……
「おいおいシンドバッド、お前、やり口がひでぇぞ。ジャーファルを嫁に欲しいんなら、ジャーファルの意見を聞いてやれ。他の奴らがお前の言い分を肯定するってんなら、俺は、バランス取る為に、ジャーファルの味方につくからな」
「ヒナホホ殿……!」
 というわけで、多少大ざっぱ過ぎる所はあるものの、人徳があり大らかなながらも常識人であるヒナホホだけが、シンに正しいツッコミを入れてくれました。
 さすがヒナホホ殿。
「ジャーファル、お前は、断るならばその理由を明かしてやるべきだ。シンドバッドの何がダメでイヤなのか、この際だからはっきり言ってやれ」
「ジャーファル、俺のことイヤなのか……?」
 些か演出過多な傾向があるシンは、捨てられた子犬のような瞳、という演出のつもりで腰を屈め首を傾げ上目遣いで見上げてきますが、……ちょっときゅんとしましたが、私は、ヒナホホがせっかく作ってくれたチャンスを捨てたりしません。しませんからね、シン。
 さぁ、頭を整理しよう。
 私とシンの主張は平行線を辿っている。しかし、八人将のうち6人を味方につけたシンの方が、現状有利。私が己の主張を押し通すには、シンの意見を肯定した6人に、揺さぶりをかける必要がある。
 さてさて、口喧嘩に勝つには、2種類の方法があるのを、ご存知ですか?
 1つは、堅牢な城を築くように、強い意志で理論を積み重ねていく防御メインなやり方。もう一つは、相手の状態を見極め、守りの浅い所を狙って隙を突く攻撃メインの方法。
 今回は、シンが前者のやり方を使ってきたので、私は後者で対抗すべきでしょう。
 喰らえ、シン!

「シン、あなた、なんだかイロイロ言いましたけど、実質は、昨夜、踊り子衣装を着て晒しを取った私のおっぱいがそこそこのボリュームだったから、抱いてみたくなった、ということじゃないんですか?」
 
 私が身も蓋も無いことを言いだすと、一瞬、場に沈黙がおりました。
「王様、それはちょっと……」
 真っ先にドン退きしたのは、あんなにノリノリだったピスティです。
大変モテるピスティですが、そんな彼女でも、胸部の脂肪が儚い己の身体を嘆くことは多く、この話題に対しては感性がデリケートなのです。
「王よ、それはちょっと……」
 次に、はっきりと眉を顰めて嫌そうな顔をしたのは、ピスティとは逆に胸部に脂肪が集まる体質の、ヤムライハです。
 ピスティは無いことに悩んでいますが、ヤムライハほど立派だと、また別の意味で悩ましい様子。
 シンドリア国民には、八人将のヤムライハにセクハラをかます輩はおりませんが、観光客や食客の中には、過去、そういう者がおりました。
 だから、魔導士としての己に誇りを持っているヤムライハは、胸部の膨らみの大小で女性の価値を測ろうとする不届き者には、苦い思いを抱いています(可愛い弟子であるアラジンに対しても、この点は受け入れられないと公言しているぐらいに)。
「違う! 誤解だ! 指輪を前々から作らせていた、と言っただろうが! そんな、肉欲だけ、みたいな言い方をするな! もちろん肉欲はあるが!」
「でも、女になったから味見したい、みたいな気持ちはあるでしょう? それで、その対象が、『ジャーファル』だから、元々家族みたいなものなので、気心が知れていて楽だし、責任取ってやってもいいか、みたいな。アルサーメンが滅んで結婚出来るし、したくなったし、にわかに湧き上がって来た結婚願望を近場で手を打ってしまう、と申しますか」
「……お前の中の俺は、どんな男だよ!」
「1晩で現地妻を6人も作るような男ですよ。女性問題において、あなたの何を信じろと?」
 私がこう言うと、ピスティとヤムライハだけではなく、八人将男性陣の眉間にも、皺が寄りました。
「そ、それはそういうこともあったが、もう過去だ! ジャーファルは特別だし、俺は変わった! お前が結婚してくれるなら、浮気はしない!」
「抱かれるのは、構いませんよ?」
「え?」
 形勢が不利になって焦ったシンが変なことを言いだしたので、私は、妥協点を提示しました。
 この先死ぬまで一緒にいたい相手だし、シンは、こうと決めたらしつこい所があるので(かつて、そのしつこさで頑なな暗殺者の心を溶かした。というか、私は抵抗するのが面倒くさくなってきて受け入れた)、ここは、私が一歩退いて妥協すべきでしょう。
「シンは、私の身体に興味があるのでしょう? あなたお上手だと噂ですし、抱きたいのならば、どうぞお好きに。しかし、「結婚」だの「王妃」だのはゴメンです」
「え?」
 私の中に、シンに抱かれたいという気持ちは、もちろんある。ええ、とてもとても、ありますとも。
 これまで、シンと共に寝室に消える女をどれだけ羨んだことか。シンに抱かれる妄想に耽ったことか。
 故に、抱かれるのは構わない、というか、女になったのだから、一生の思い出として一度ぐらい手を出されてみたい、というか。
 救いようがないぐらいに愚かな恋情が、私の胸でそうつぶやいています。
 けれど、結婚して王妃に、なんていうのは話が別。
 私なんかをそんな地位につけても、シンには何の利益もありません。
 1人身が寂しいとか思っているのかもしれませんが、籍など入れなくとも、私が生涯お傍にいるつもりなのは、シンもわかっているはずです。
 だからこその妥協点。
 これなら、私は、不釣り合いであることに悩まなくていいし、シンに抱いてもらえる。シンは、気になっていた身体を味わうことが出来るし、結婚なんて面倒なことしなくていいし、これまで通り束縛されなくて済む、とどちらにもメリットがあります。
 なので、多少ごねられても、最終的には採用してもらえると思ったのですが。

「嫌だ。俺は、お前と結婚したい。だが、お前が、俺の過去の女性問題を見てきたから、誠実さに欠ける夫は欲しくないというのは、筋が通っている。だから、お前は、俺をいくらでも試していい。試して、俺がお前との約束を守れんような男なら、俺がお前に相応しくないのだから、振られても仕方が無い。だが、試して、俺が試練に耐えた場合、必ず結婚してもらうからな!」



≪サンプルは以上です≫



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水鏡
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非公開
自己紹介:
シンジャでジュダ紅な字書き。
スーパーチートでカリスマなのに人間味あるシンドバッドと、シンドリアの母で狂犬なジャーファルが気になって仕方ありません。若シン子ジャとか、ホント滾る。
ジュダルちゃんと紅玉ちゃんは、可愛くキャッキャウフフしてて欲しいです。
アリモルとシャルヤムは公式だと思っております。

 

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