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あなたとワルツを

シンジャと八人将で、眷属魔装を妄想したss。

見よ、空は黒く穿たれた。



 風が轟々と荒れ狂う只中で、なのに貴方の声は鮮明に聞こえた。
「止めろ、ジャーファル!」
 空からは無数の黒い手が伸び、大地では、無数の依り代たちがその手を招き寄せようと蠢いている。まったくもって禍々しい。
 前回の失敗から学んだアルサーメンは、今度は周到に対策を練ってきやがった。
 今回の依り代は、量産型だ。
 前回より弱いが数は多くて、各国の1番大きな都市に複数もしくは1体ずつ配置されてしまっている。故に、各国の金属器使いは、自国の民を見捨てることなど出来ず、各々が自国内の依り代に対峙せざるを得ない。だから、誰もが、黒き神を招く為の本命の依り代はアルサーメンが築いた海底神殿にいるとわかっていながら、分散して戦う羽目に陥っていた。
 しかし、我がシンドリアだけは、国を覆い尽くす結界のおかげで、依り代を突然国内に送り込まれることは無く、結界の外側で、民の犠牲を出さず迅速に仕留めることが出来た。だからこそ、七海の覇王シンドバッドは、今、本命たる海底神殿を目指すべく転送魔法の準備を急がせているのだが、……絆を結んだ金属器使いたちからの救援を求める声が、シンを苦悩させていた。
 緊急事態の為に、と普段魔力を蓄積しておいて有事には双方向通信として使い続けられるようにしたルフの瞳の改良版スクリーンから、かつて訪れた国が、町が、人々が、依り代に害される光景がノンストップで提示される。
 金属器使いが複数いる煌帝国はいい。送り込まれた依り代も複数だが、皇太子紅炎の指揮の元、金属器使い全員で、着実に1体ずつ各個撃破出来ている。
 同じく複数の依り代を送り込まれたレーム帝国は、将軍とやっと魔装が出来るようになった皇子が、民を守りながら依り代たちを誘導して、依り代たちを一か所に集めようとしている。あれは、持続時間があまりに短いが突破力に関しては抜群のムーの能力を活かして、1度の魔装で全てを始末する戦法なのだろう。
 バルバッドは、アリババ君が1対1で依り代と対峙している間に、アラジンやモルジアナが市民を誘導して避難させているが、避難が完了したら、アラジンから魔力供給を受けてフルパワーとなったアリババ君が極大魔法を放つはずだ。アラジンがいれば極大魔法を何度でも使えるのが、彼らコンビの強みである。
 だから、これらの国のことは心配していない。問題は、各国に1人しか金属器使いを擁していない七海連合のアルテミュラ・エリオハプト・ササン・イムチャックのことだ。
 七海連合というのは、シンが直接赴いて絆を結んだ国々のことだから、シンにとってはどの街にも思い出があるし、そこでたくさんの人々に出会っていた。
 私だって、ずっとお供していたから、各国に、金属器使いや眷属以外にも、思い入れのある相手がいる。雪山を超えてきた旅人に温かいスープを差し出してくれたイムチャック族のあの女将、花輪の作り方を教えてくれたアルテミュラのあの無邪気な少女たち、砂漠を越えた旅人に冷たい水を汲んで来てくれたエリオハプトのあの少年、親身になって私たちの馬の世話をしてくれたササンのあの親切な老爺、他にも、たくさん。彼らが今、あの依り代に脅かされているのだと思うと、堪らない気持ちがこみ上げてきた。
 シンは賢いので、この世界でただ1人7体ものジンの主である自分こそが、本命を叩きこの事態を根本的に解決しなければならないことなど、理解している。本命の依り代が黒き神と完全に同化してしまったら、目の前の人々の命をいくら救おうとも、否応無しに世界は滅ぶのだ。他の金属器使いが自国内で足止めされているからこそ、シンは行かねばならない。
 だけど、シンは優しい。
 己を襲った暗殺者の子供にすら手を差し伸べるような男が、今まさに死に瀕して必死で救いを求めている人々を無視して先を急ぐことに、痛みを覚えないはずがない。
このままでは、シンは強くて優しくて賢くて、……愚かで甘くて脆いから、彼らの死に責任を感じてしまうだろう。シンにしか果たせない世界を救うという役目があっても、それでも尚、彼らの死を背負おうとする。それがどれほど重く、シンを壊すとしても。
 だから、私は、私たちは、決めたのだ。




「止めてくれ、皆!」
 シンは敏い人だ。だから、己の家族である眷属たちが何を考えているのか、瞬時に気づいた。
 この戦局で我ら眷属が戦力になろうと思うなら、取れる方法は1つしか無い。
「イヤでーす! 王様、私、里帰りしてお母様と一緒にダンスを踊りたいので、休暇を申請します!」
 アルテミュラの王族は、動物に働きかける力を持つ。アルテミュラ女王の末子たるピスティは、他者の支配を受けている動物すら従わせてしまうほど力が強く、その強さ故に自国では持て余され、自ら望んでシンドリアにやってきた。
シンドリアで生き生きと羽を伸ばした彼女は機転が利く娘に成長し、なかなか洒落た言い回しをする。ダンス、ね。なるほど、遠目なら踊っているように見えるかもしれないな。
「王様、俺も休暇申請お願いします! 嫌だけど、すんごく嫌だけど、仕方無いので兄貴と踊ってきますんで!」
 エリオハプトの王弟シャルルカンは、権力闘争に負けた己を生かす為にシンドリアへ送り出してくれた実の兄に感謝をしつつも、大変苦手としている。ほら、今も、盛大に顔を顰めてるしね。だが、やると決めたらやる子なので、嫌々ながらもしっかり頑張ってくれるはずだ。
「王よ、私にも休暇を! 我が兄と共に踊る機会は、他にございません故!」
 廃嫡されたササンの王子スパルトスは、先王が老いてから産まれた王子で、現王にとっては腹違いの弟だ。彼自身は兄を慕っていたが、耄碌した先王の盲愛の為に宮中が派閥争いで割れるのを防ぐには、僧院に引き籠る他なかった。 
僧院暮らしのせいで真面目で堅物だったのだが、ピスティとシャルルカンの影響か、どうやら、最近は意外と融通が利くようになったらしい。
「じゃあ、まぁ、俺も、首長と踊ってくるわ。どっちもそんな柄じゃねぇけど、遠縁の誼ってもんがあるしな」
 イムチャックの首長は、一族のいくつかの家系の家長の中から選ばれる。ヒナホホは、本来、現首長の次に首長となるだろうと思われていたが、事情があって故郷を出て行かざるを得なくなった。だが、イムチャックは同族婚が多いので、現首長とも血が繋がっていて、現在も仲は悪くないらしい。
「シンドリアは、私たちに任せろ」
「絶対に、守りますから!」
 武官を束ねるドラコーン将軍と天才魔法使いヤムライハは、故郷にはもう戻れない。金属器使いを有さない故郷が気になるはずだが、それでも、彼らは、彼ら自身の意思で選んだこの国を愛し守ると言ってくれる。
「マスルール、君は……」
「っス」
「だよね」
 私とマスルールは、シンドリア以外に故郷と呼べる場所を持たない。マスルールは、余計なことは何も言わずに一つ頷いた。
 私は、仲間たちをぐるりと見渡した。ああ、なんと誇らしいことか。私たちの心は、今、一つになっている。素晴らしい仲間たちだ。
 だから、私は、仲間に背を向けて、盛大に眉を顰めている王に対峙し跪くのだ。
「我らが王よ、王の随従は私とマスルール、シンドリア防衛は将軍とヤムライハ、残りは連合国の援護に回ります。あなたの憂いは我らが断つ。だから、前だけを見てください。あなたには、あなたにしか出来ないことがあるのですから」
「……俺は嫌だ」
 シンは、こういう所が傲慢だ。自分が強いからって、守ろうとするばかりで守られるのは嫌がるなんて。
「ダメです。あなたは私たちの主ですが、だからこそ聞けない命令がございます」
 ワガママを言いだしたシンを諌めるのは、いつだって私の役目。だから、私は、この、今にも泣き出しそうな顔をしている愚かで愛しい男の頬をそっと撫でて、優しく口づけた。
「私が、7本も角が生えて火を吹くようになっても、キスしてくださいね」
 シンが零れ落ちそうなほど目を見開いて驚くので、私は、悪戯が成功した気分になって笑う。
 八人将にはバレていると知っていながらも、人前で関係を匂わせるのを頑なな程に嫌がって拒んでいたのは、私だ。その私が、相手が八人将とはいえ人前でキスをしてくるなど、シンにとっては予想外の出来事だっただろう。
 シンが珍しく驚きで硬直していると、素早く近寄ってきたピスティが、ぴょんと飛び上がってシンの頬にキスをした。
「王様、終わったら、ほっぺでいいから、私にもキスしてね!」
「じゃ、俺も」
 便乗して、ちゃっかりシンの頬にキスするのはマスルール。
「てめ、ズルいぞ! 王様、俺も、俺にもしてくださいね!」
 マスルールとシャルルカンが、立て続けにシンの頬にキスをする。シンは、本当に稀なことに、されるがままだ。
 次は、という感じで皆に見つめられたスパルトスは、若干青ざめながらぶんぶん首を振り、跪いてシンの手を取り、恭しく額に押し戴いた。
「王よ、我が身がいかに変わろうとも、今後も末永くお仕えすることをお許しください」
「これ以上でかくなっちまったら、俺ん家改装しないとな! 費用は、お前の私財で頼むぞ!」
 ヒナホホが、陽気に笑いながらシンの背中をバンバン叩く。
 ドラコーン将軍はその様子を見て微笑み、ヤムライハは必死で涙を堪えていた。
「お前ら……」
 我ら眷属は、ジンを宿す器を持つ王たちとは違い、ジンの眷属を我が身に受け入れ魔装したならば、もう人間には戻れない。
 世界初の眷属となり初めて眷属器を発動させたのは私だが、初の眷属魔装者はドラコーン将軍だ。今でこそ、鷹揚に我が身を受け入れ美しい奥方からの愛も手に入れているリア充な将軍だが、竜化した当初はショックが大きかったし、傍で一部始終を見ていた私とシンも、大きな衝撃を受けた。特に、シンにとっては、トラウマになる程に。
 だからこそ、ドラコーン将軍の衝撃と苦労を間近で見てきたからこそ、シンは、後に各国の眷属が魔装を身につけても、自身の眷属の魔装を許しはしなかったのだ。
 それは、シンの優しさであり愚かさであり、尊い所であり弱い所でもあった。
 なので、私たちは、これまでシンの意を汲んで眷属魔装だけはせずにここまで来たのだが、もう潮時だ。
「シン、あなたが愛し認め居場所をくださるならば、見た目が人と異なることぐらい、何程のことでしょうか。我らには、美しくしっかり者の奥方を得た将軍という前例もございますしね。見た目がちょっと変わったって、ちゃんと幸せになりますよ。だから、あなたを守りたいという私たちのワガママを受け入れてくださ」
「バカ野郎っ!」
 言い終る前に、強引に抱きしめられた。王様のくせに腕力自慢なシンが手加減を忘れているので、骨が軋み息が詰まる。
「お前たちは皆、大バカ野郎だ! 主に似てな! 角が生えようが羽が生えようが火を吹こうが巨大化しようが、キスぐらいいくらでもしてやる! 潰れるぐらいに抱いてやる! 愛してやるからな、バカ野郎共!」
 声の最後は涙で滲んでいた。あーあ、もう、王様なのに決戦の直前に泣くとか、愛しい人だ。
「いやいや、王様、抱くってのはちょっと……」
「……王よ、落ち着いてください」
 青い顔で、シャルルカンとスパルトスが首を振る。
「そういうのはジャーファルだけにしといてやれ」
「っス」
 ヒナホホとマスルールが、呆れた顔をしてこちらを見ている。
「えーっ、私もして欲しいけどなぁ」
「何言ってるの、ピスティ!?」
 まぜっかえすピスティをヤムライハが諌める。
 だから、私は……
「いい加減離せ、バカシン! 戦いの前に殺す気か、このバカ王!」
「ぐはっ!」
 ありったけの愛を籠めて、親愛なる我が主をはり倒した。

 




 さぁ、行きましょう。手に手を取って、黒く染まった世界の果てまで。
 あなたと共に踊れるのならば、私は何も怖くなんてない。ただただ、幸せなだけ。
「バアルの眷属よ! 我が身と一つになれ!」




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プロフィール

HN:
水鏡
性別:
非公開
自己紹介:
シンジャでジュダ紅な字書き。
スーパーチートでカリスマなのに人間味あるシンドバッドと、シンドリアの母で狂犬なジャーファルが気になって仕方ありません。若シン子ジャとか、ホント滾る。
ジュダルちゃんと紅玉ちゃんは、可愛くキャッキャウフフしてて欲しいです。
アリモルとシャルヤムは公式だと思っております。

 

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