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マギのssと感想と考察のブログ。 CPは、シンジャとジュダ紅。アリモル・シャルヤム・スパピス要素あり。 公式とは一切関係ございません。
次回イベント参加は、10/27のスパークです。
ぷちオンリー2つに参加します。王様と私と、煌国演義。
新刊は、シン♀ジャ「シンドリアンナイトフィーバー」と、ジュダ×紅玉+紅三兄弟な「お義兄さまは心配症」の予定。
そして、煌帝国ぷちの企画に参加して、ポストカードで、紅覇×純々な小話を書きたい……がんばります。
通販は、現在、とらのあなさんにお世話になっております。http://www.toranoana.jp/mailorder/cot/circle/04/51/5730363235313034/a4c4a4afa4e8a4df_01.html
次回新刊からは、K-BOOKSさんにもお世話になる予定です。
8月発行の2種は、手元にほんの少しだけあるので、それまでに自家通販のお申し込みがなかったら、スパークに持っていきます。
自家通販ご希望の方いらっしゃいましたら、「オフ活動」カテゴリの「自家通販について」をご覧ください。
書店委託していない本として、ジュダ紅のコピー本「りんごのうた」があります。
なので、現状で自家通販可能な本は、「誰も寝てはならぬ」「ハッピーサマーエンゲージ」「りんごのうた」です。
ちゃぷん。ぴちょん。
白い指先が水面を弾く度、広い浴室に水音が響く。
「イイ香り……」
指先がつつっと撫でたのは、湯舟にぷかぷかと浮かぶ真っ赤なりんごだった。
「美しいお肌になりますように」
呟いたのは、煉 紅玉。
紅玉は、努力を重ね、昔は誰からも忘れ去られ、幽鬼と疑われる程みすぼらしかったとは思えないほど、変貌を遂げた。
長い紅の髪は毎日香油を塗り込まれて艶やかになり、顔立ちは、幼い頃は表情がぎこちなかったせいでイマイチという評価で、現在でも美貌というよりは可愛いタイプだが、化粧の技術を磨いて、皇女衣装に負けぬ華やかさを整えている。
勉学は苦手だが、礼儀作法は一通り修め、美容には常に気を配り、武道は特に力を入れて頑張った。
かといってがさつにならぬよう、振る舞いにも気を付けている。
マギたるジュダルの導きもあって見事迷宮攻略を成し遂げた今、紅玉は、皇宮に確かな地位を築いていた。
心を開示する術より先に、この皇宮で生き抜くのに必要な去勢の張り方を覚えてしまったので、まだ『友達』と呼べる存在はいないが、昔に比べたらずっとマシだ。
もう下男下女に怯えたりすることはないし、従者たる夏黄文は眷属で、確固たる絆で結ばれている。
見た目を精一杯整えて、勇気を振り絞って挨拶をすれば、迷宮攻略者として名を馳せる紅炎・紅明・紅覇という兄たちも、紅玉の存在に気づいてくれたし、同じ攻略者となってからは、一目置いてくれている。
歳若い女性皇族の攻略者ということで何かと対比されがちな白瑛のことは虫が好かないが、その弟の白龍とは普通につきあっていた。
政略結婚で嫁がされた姉姫たちには、いまだに苦手意識が残っているが、もはや皇宮を去った彼女らと、迷宮を攻略してジンの主となった紅玉では、周囲から見た重要度が全く違う。姉姫たちは顔を見る度に嫌味を言ってくるし、幼い頃の刷り込みでうまく言い返せないので、やはり嫌いだが、今の紅玉には味方がいるから大丈夫だ。
夏黄文と、お兄様方と、それから……
「……ジュダルちゃん」
「おお。よくわかったな。魔法で音消してたのに」
ぼーっと考え事をしていた紅玉が、突然後ろから聞こえた声に驚いて振り向くと、そこにはジュダルがいた。
「えっ!? ジュダルちゃん!?」
双方とも、貴人の入浴時の習慣として湯浴み着を纏っているから裸ではないが、濡れて肌に貼りついた湯浴み着には何とも言えぬ風情があり、年頃の男女ならば意識して当然の格好だ。
しかし、紅玉の驚きは、単に、いつの間にか側に居たことへの驚きだけであったし、ジュダルも平然としていた。
若い男女としておかしな事態なのだが、純粋培養され過ぎて奥手を通り越して天然が入っている紅玉は、むしろ相手が憧れの対象である長兄紅炎だったならば、大層乙女らしい反応を見せただろうに、ジュダルに対しては平然としていた。
何故、こんなことになっているのか?
かつて、りんごをもらった後、ジュダルは、紅玉の宮を散歩の定番コースに組み込んだ。その結果、2人は、毎日とは言わないまでも、かなりの頻度で顔を合わせるようになった。
ジュダルが気に入っている皇族は他にも居たが、彼らは、権力の分責任の重みも背負っていて、日々やるべきことがあり、忙しい。
対して、夏黄文以外の誰からも期待されていない紅玉は、己を向上させる為の努力は惜しみなく行っていたが、それは、〆切や期日に追われるようなものではなかった。
それに、紅玉を指導していた夏黄文にとって、ジュダルは、生意気でワガママで腹の立つ子供だが、社交性の低い紅玉が己から自主的に絆を結ぶことが出来た唯一の相手であり、皇帝や皇太子という存在に繋がる重要な縁でもあったので、勉学も鍛錬も、ジュダルが遊びに来ると中断せざるを得なかった。
紅玉は世間知らずで無知で、話術どころか最初の頃の会話は片言に近かったが、下手したら何百年と生きていそうな組織の連中に育てられたジュダル(一度玉艶に歳を尋ねたら、絶対零度の微笑みで二度としないことを約束させられた。大人の言いつけなぞ聞きたくないジュダルだが、さすがに、大魔女に本気の仕置きを喰らうのはゴメンである)にとっては、自分が物を教えることが出来る数少ない相手であり、反応が素直で何でも信じるので、からかう楽しみがある相手であった。
それに、ジュダル本人は気づいてはいなかったが、彼の周りに居て、彼がマギであることに重きを置いていないのは、紅玉ただ一人であったのだ。
世界にたった三人のマギのみが、無尽蔵にルフを集めることが出来、迷宮を出現させられる。
かつて、初めて迷宮を攻略して世界の在り方を変えたのはシンドバッドだが、その迷宮を出現させシンドバッドに挑戦を促したのは、マギであるユナンだった。
その後、気紛れにユナンが出した迷宮、それへの対応手段としてシェヘラザードが出した迷宮、組織の要請を受けてジュダルが出した迷宮が、どれだけ、この世界の歴史に影響を齎したことか。
その胸に野望や理想や悲願を抱く者は、決して、ジュダルがマギであることを無視出来ない。
だから、野望も理想も悲願も持たぬ、乙女らしいふわふわした夢ぐらいしか持たない紅玉と共にいる時間は、ジュダルにとって、肩の力が抜ける時間でもあった。
……なので、距離感を間違えて接し、比較対象を持たない紅玉は違和感を感じず、権力におもねる夏黄文は諌めることが出来なかったのだろう。
現在のジュダルと紅玉は、全裸二歩手前(一歩手前は葉っぱである)の格好でくっつきあっても、疑問を感じないようになってしまった。
湯舟の中をじゃぶじゃぶと歩いてきたジュダルは、紅玉を後ろから抱き締めるように腕を回し、紅玉の細い肩の上に頭を乗せた。
「ババア、なんでりんごなんだよ」
「ババアじゃないわよぉ! あのね、りんごには美肌効果があるの! 前にジュダルちゃんが私を騙した嘘の美肌風呂とは違うんだから! それに、イイ匂いじゃないのぉ」
純真可憐な乙女であるはずの紅玉は、少し顔を傾けたら唇が触れ合いそうな距離にいるジュダルに全く焦らず、いそいそとジュダルの髪を解き始めた。
ジュダルは、自慢にしている産まれて一度も切ったことがない髪を紅玉に預けて、湯に浮かぶりんごを一つ捕まえる。
「りんごは食う方がいいだろ?」
「食べてもいいけど、お風呂に使うのもいいのよぉ。ほらぁ、りんごの香りのお茶とかあるじゃない?7」
三つ編みを解かれたジュダルの髪が、ゆらゆらと湯の中に広がった。
ジュダルは、捕まえたりんごに齧り付く。
「……ぬるい。おい、ぬるいぞ、このりんご」
「お湯に浸かっているのだもの、それはぬるいわよぉ」
「果物ってのは、よく冷やすか、反対に甘く煮て温めるのが、正しい食い方じゃねぇのか? ぬるいりんごってどうなんだよ?」
「んもぉ。だから、このりんごは、食べる為じゃなくて、お肌の為にお湯に入れてるのよぉ」
「うっせぇ。お前も食え」
自分が勝手に入ってきて勝手に食べたくせに、ジュダルは文句を連ね、挙句、紅玉の口元に、齧った痕があるりんごを突きつけた。
他者の食べかけの物を食べる習慣なんてない紅玉だが、ジュダルだけはその範疇外で、一緒に食事をする際に、自分の嫌いなおかずや食材を紅玉の皿に乗せてきたり、紅玉が最後のとっておきの一口の為に取っておいた好物を食べられたりするのはよくあることだったので、気にならなくなっていた。
例えるならば、猫との口づけは口づけに数えず、みたいな感覚である。
紅玉にとって、ジュダルは、男でも女でもなく、性別:ジュダルちゃん、であった。
なので、こうしないとジュダルが退いてくれないことぉ知っている紅玉は、唇にくっつけられたりんごを、一口齧る。
「ぬるいわ」
「だろ?」
「じゃあ、ジュダルちゃん、明日もうちの宮に遊びに来たら、お湯に入れずに冷やしておいたりんごを用意しておくわ。そうよ、私が、りんごをうさぎにしてあげるわぁ!」
『りんごをうさぎにする』という表現は、最近紅玉が読んだ少女向け読み物に出てきて、なんだか可愛らしいから使ってやろうと思っていた所だったので、紅玉は得意げな顔をする。
「ババアが? 出来んのかよ?」
ジュダルの心配は最もだった。
紅玉は迷宮攻略という冒険を成し遂げたものの、将軍職を賜り遠征の多い白瑛などと比べると、格段に世間知らずだ。
迷宮内での食事は携帯食料でほとんど済ませたし、料理をする必要がある時は当然夏黄文が行ったので、紅玉は料理をしたことが無い。
しかし、シンドバッドの冒険書の愛読者であり、頑張り屋の紅玉は、やる気満々だった。
「剣が使えるのだから、刃物には慣れていてよ。だから、問題は、練習よぉ。明日、ジュダルちゃんが来るまでに、練習しておくわぁ」
夏黄文が聞いたら頭を抱えそうな台詞を放つ紅玉。しかし、さすがの夏黄文も、少女である主の入浴中にツッコミを入れに来るのは、不可能であった。
ジュダルが一緒に入浴しているのが問題にならないのは、性別:ジュダルちゃんだからであって、腹心の侍従と言えど、男女で越えられない壁はある。
「マジかよ。うさぎりんごとか、バッカみてぇ」
「じゃあ、ジュダルちゃんは、ぬるいりんごを齧ってなさい! 私が、冷やしたうさぎりんごを食べる横で!」
「んだよ~。おれのりんごもうさぎにしろよ~」
腹を立てた紅玉が、肩の上に乗っていたジュダルの頭をぐいっと押しやると、ジュダルは、紅玉の髪をつんつん引っ張って、猫撫で声を出した。
そういう声を出されると、紅玉は弱い。
何せ、ジュダルは、友達がいない紅玉にとって、ほとんど唯一の、己の宮に遊びに来てくれる『お客様』なのだ。
兄たちと親交があると言っても、向こうが手の空いた時に会食や茶に招かれたりする程度で、兄たちの宮の方が、当然、調度品やら何やらの設えは上だ。その為、使いの者ではない彼ら自身が直接この宮に訪ねて来てくれたことは、まだ一度も無い。
ジュダルが組織の仕事などで皇宮を長く留守にすると、紅玉は、それはもう寂しい想いをしていた。
なので、どれだけジュダルにからかわれても、紅玉の怒りは長く続かないのだ。
「んもぉ、じゃあ、しょうがないから、ジュダルちゃんのりんごもうさぎにしてあげるわぁ」
言葉では仕方が無いふうを装いながらも、紅玉は、口元に笑みがこみ上げるのを抑えきれなかった。
だって、明日もまた、ジュダルが遊びにきてくれて、憧れの『りんごのうさぎ』をジュダルの為に作ってやるのだ。
捻くれ者のジュダルだが、もし紅玉が上手に作っていたら、もしかしたら、褒めてくれるかもしれない。
もし失敗したら、ジュダルが盛大にからかってくるに違いないが、それでも、一緒に食べてくれることだろう。
紅玉は、それが楽しみなのだった。
「ババア、そろそろ出ようぜ」
「ダメよぉ。髪を解いちゃったんだから、洗わないと! 私が洗ってあげるわぁ。だから、お返しに、ジュダルちゃんは私の髪を洗ってちょうだいねぇ」
「うぇ~、めんどうくせぇ~」
2人は、互いの髪やら身体やらに散々ベタベタ触って、しかし、今宵もまた、清く正しく入浴を終えた。
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